ある日の午前のこと。事務所の電話がけたたましく鳴りました。
社員が私のデスクの後ろでその電話を取り、神妙な面持ちで私に電話を転送します。
「社長、保健所から電話です…………。」
今から10年前のことでした。
まだ弊社が通販部門を立ち上げて間もない頃のこと。
販売するアイテムをあれやこれやと迷いながら、自社で出来る限りのギフトメニューを作っては販売。作っては販売。それを繰り返していた時のことです。
企画、プロデュース、調理、袋詰めまで最初の頃は自分で何でもやったもんでした。
当然、販売するにあたっては今までの飲食店を営む免許のほか食品衛生法に則り、数々の免許を保健所から取らなくてはいけない。
また保健所の見解と農水省の管轄である jis規格のすり合わせを行いながら、商品の裏面に貼る、品質表示である「一括表示」を制作するなど、飲食店では考えられないほどの仕事が増えたのでありました。
ましてや物流に対しての知識も全くなかったため、右往左往していた時期でもあります。
そんな中、出来上がったのがローストビーフ。
従来の冷凍品のローストビーフではなく、肉もしっかりエイジング(熟成)させた後、十勝ワインでマリネし、香味野菜とともにロースト。旨みたっぷりの状態でチルド流通させる予定でした。
百貨店の食料品売場や飛行場、ホテルなどBtoB、BtoCなど、あらゆる流通に乗せようということもあり、商品ラベルを作り、そして箱のデザインも考え、カメラマンを呼んで撮影。
発注先から一式のツールが出来上がり、新聞にもプレスリリースを配布。ようやく記事として取り上げられ、大々的に PR も完了。
これから!という時のこと。
新聞にデカデカと「池田町の飲食店、地元産品を使って通販開始」と記事になった次の日の朝一番に、冒頭の保健所からの電話だったのであります。
社員から転送された電話に出ると、受話器の向こうには保健所の食品衛生担当の X 氏が待っている。そして、すかさずこう切り出します。
X 氏「ゆたかさん昨日の新聞拝見しましたよ。ローストビーフを販売されるとか……。ところで免許はお持ちですか?」
私は堂々と切り返す。
私「はい。しっかりと【食肉販売業】の免許なら持っておりますよ。」
自信満々である。
しかしながら、 X 氏はこうも切り出した。
X 氏「いやいや、ゆたかさんがその免許をお持ちなのは重々承知です。私が伺っているのは食肉を製造する上での免許のことをお持ちかお尋ねしております。」
なんともいやらしい聞き方であります……。
私は一瞬ハッとなって再度問いただします。
私「食肉を販売する上で違う免許もいるんですか??」
X 氏「はいゆたかさんが持っている免許とは違う、【食肉製造業】という免許が必要になってきます。」
私「わかりました。残念ながらその免許は持っておりませんので至急申請させていただきます。免許をどういう風に取得すればよろしいでしょうか?」
X 氏「まず大前提として医師、獣医師は会社にいらっしゃいますか?」
私「そんな人がうちの会社にいるはずがないでしょう(笑)」
X 氏「ならば免許を与えることは無理です。ハム、ソーセージやローストビーフを製造するとなると医師やそれ相応の資格を持った方が常駐する食品衛生管理者が居て、初めて【食肉製造業】という免許が認可されることになってます。」
私はそこで一気に頭が真っ白になったのであります。
今回のローストビーフを世に出すにあたり、パンフレットはもちろんのこと、ポスターや箱、パッケージおよびそれに類するデザイン費も相当力を入れてつぎ込んでしまいました。
今となっては笑い話ですが、当時は相当落ち込んだことを覚えております。
なので今でも医師や獣医師を雇用できずにおりますので、ローストビーフはそのままお蔵入り。購入した資材関係も全て破棄。(笑)
「無知は人生に壁を作る!」と言いますが、まさしくこのことが勉強になり、その後の通販部門展開のいい勉強になりました。
世はまさにコロナ禍。
飲食店は日本全国的に危機に瀕しております。
先月も東京出張の折、赤ちょうちんの居酒屋さんが真っ昼間に行灯(あんどん)を点け、のれんを出して店頭で弁当を販売している様相を見ると痛々しさえ感じてしまいます。
とは言っても皆さんは死活問題。
どうやって、今ある食材を現金化するか?
どうやって、少しでも従業員さんの給料の足しにするか?
ということで、あの手この手を考えたあげくのお弁当の宅配やテイクアウトに踏み切っていることと思います。
中には私のように通販ビジネスに乗り出す飲食店オーナーも少なくはないでしょう。
しかしながら、飲食店のメニューを流通に乗せるとなると、惣菜業の免許や冷凍冷蔵業の免許が別途必要になってまいります。
怖いのは、この免許のことを知らずに通販業界に参入し、万が一食中毒等があった時に違法行為となり、せっかくかけた賠償保険などの保障が対象外となってしまう恐れがあります。
それは販売した飲食店はもちろんのこと、その通販商品を買われたお客様が食され、体調を壊したとしても、保険金が支払われず店側がすべて対応することを意味するのです。
どうか参入を検討されている飲食店、及びこのタイミングで参入に切り替えられた飲食店は今一度、地域の保健所に相談の上、自社がしようとしている試みについて、今一度検証されてはいかがでしょうか?
老婆心ながら私のような過ちは少なくともして欲しくはないのです。
このブログにで出会ったのも何かのご縁。
早いうちにご確認ください。
早くコロナが収まり、日本の飲食店が復活するのを願うばかりです。
まぼろしのローストビーフ(笑)
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鈴木賢司飲食総合研究所
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